『絵描きに恋した詩人』
矢を射る天使のように
靄を描く貴女は
私に振り向くこともなく
魔女の言の葉が
人々を踊り狂わせても
きっとわかった
貴女は
言葉の世界を生きていない
私は
ここからでられない
手を引いて笑いあったのは昨夜
私は涙を小瓶につめて
流星群を引き寄せた
『小瓶につめたこの街を』
無邪気に
花瓶を割った
七月の蝶々
ぼくは
ぼくの
鼓動の音に驚く
はっ
とするほどの
静寂
懐かしい
微睡みを信じて
夢みたいだね
と君は言う
『拒絶とミルクティー』
貴女をお姫様に仕立て上げる
午後の曇り空
私は貴女にキスをする
指を絡めて
砂糖を混ぜる
貴女は
もう何も信じない
という顔をして
階段を駆けていった
鍵のかかったその部屋で
オルゴールが鳴っている
私は
くしゃくしゃと花を丸めて
もう何も信じられない
という顔をした
『瞳がつらぬいた』
烏の濡れ羽
前髪を
生ぬるいが揺らす
ぼくはそれを覗き込んで
そしたら口付けされて
もううんざり
明日もここに来てほしいと
ねだる君は一欠片の魔女
ぼくは
どうでもいいよ
と押したシャッターの音
甘い蜜と症候群
少女が閉じこもる
『箱詰め』
私が作った世界。描いて貴女の。言葉が人々を揺り動かすとき、貴女はとても気持ちよさそうに眠っていた。だからすべてを小瓶に詰めた。海はもうそこまで迫ってきている。一欠片の魔女の片想いを永遠に流星群。花びらを流して。祝福してもらえるなんて思うはずもない。視線があったらもうおしまい。
『事情』
ぼくがシャッターを押したのは。君の無邪気を閉じ込めてみるため、ここに。世界が小瓶でもまぼろしでも君はひとりの少女であることに変わりはない。色彩にすら興味のないぼくは、君とくちびるを重ねたあの瞬間を心臓に留めようとおもう。もう何も知りたくないとかぶりをふった彼女はまた星を掬う。
あとがき
愛する女の子のために街をひとつ作り上げてしまった女の子のお話です。無邪気な魔女をシャッターの中におさめたあの子は、この場所をどう思うでしょう。
お月見文庫|月見珈詩
やっぱり過去にとらわれてる
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