吟遊詩人の恋(童話)

ある日、流れ星が落ちるように恋をした二人がいました。彼女は詩人。彼は音楽家。二人は口づけを交わし吟遊詩人になりました。
春は花々に囲まれ、夏は晴天の下、秋は紅葉に包まれ、冬は暖炉のまえで。
誰もが彼と彼女のうたを受け入れる訳ではありません。けれどその透き通ったことばのしらべ。純真なおとのはこび。人々の拍手と笑顔、僅かな硬貨で彼と彼女は旅を続けました。
彼女は器用でしたが生きていくための物事が何もできません。彼は不器用でしたが彼女を生かすためならば何でもできる気がしていました。
彼女の身体のなかにはことばがあふれているのだろうと彼は幸福な気持ちになります。彼の頭のなかではつねに音の数々が流れていると彼女は誇りに思っています。
ある日、彼女は自分のうたで自分の心臓を突き刺しました。それが彼女の望みでした。彼はそれを目をそらすことなく見つめていました。こうなることを彼は知っていて、二人は一つ。吟遊詩人でした。
その後の彼のゆくえを誰も知りませんが、とある吟遊詩人の透き通ったことばのしらべや、純真なおとのはこびを、ふと思い出す人々の物語は続いていきました。

あとがき
中編小説『マリオネット』に登場するキャラクター、南の書いた童話です。とっても楽しんで書いたのだろうなぁと。南は漫画しか描けないと自分で思っているけれど、実は多才だったりするんじゃないかなぁと自分は思います。

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お月見文庫|月見珈詩

やっぱり過去にとらわれてる